2005年 07月 26日
林 檎 ニ 似 タ 月 |
ほとほとと、夜道を歩く自分の影がいつもより妙に長いことに気付き
ふと振り返ると真後ろに月がありました。
その、まぶしいくらい煌々と輝く様を見て、
「 林 檎 ニ 似 タ 月 」
なぜそんなふうに思ったのでしょう?
なんだか林檎みたいに、手のひらに乗せられそうな気がしたのです。
私は立ち止まってそっと目を閉じ、夜空に向かって両の手のひらを
“ 何か ” を受け止めるような形でさしのべました。
その瞬間、手のひらにかすかな重みを感じたのです。
たとえるなら、そう、
ちょうど “ 林檎1個ぶん ” くらいの・・・
そっと目を開き、おそるおそる手のひらに目をやると、そこには
「 林檎ニ似タ月 」 または
「 月ニ似タ林檎 」 が ありました。
私は その場に立ちつくしたまま、
自分の手の上の 「 それ 」 について考えてみようとしましたが
何をどうしたらいいのか?
何をどう考えたらいいのか?
まったくわかりませんでした。
面倒になった私は 「 それ 」 をポケットに押し込むと
また ほとほとと歩き始めました。
そしてそのまま 「 それ 」 のことを、すっかり忘れてしまったのです。
次の晩、空に月はありませんでした。
そのまた次の晩、やっぱり空に月はありませんでした。
私は 「 まさか・・・」 と思いつつ、
あの夜 着ていた上着のポケットを探りました。
「 それ 」 は そこにありました。
真っ赤に熟した、つやつや光る 林檎 の姿をしたままで。
私は 「 それ 」 を 遠慮がちにひとくち囓りました・・・
星もかすんでしまうほどに 煌々とかがやく
「 まるで誰かにひとくち囓られた林檎のような月 」 が
天高くに姿を現したのは、その夜のことでした。
【 f i n 】
+++ あたりまえですが、このお話はフィクションです +++
by cheshire335
| 2005-07-26 12:03
| 蟹の呟き