蟹の泡 2




咲かぬ花あれど 散らぬ花はなし



花は咲き 花は散る

また花は咲き また散ることの繰り返し



そんなあたりまえのことが 嗚呼

なぜこんなに心を打つのだろう

なぜこんなに胸が痛むのだろう




e0018424_1514792.jpg




あたりまえなんて ほんとうは

どこにもありはしないから

[PR]
# by cheshire335 | 2005-08-10 15:09 | 蟹のあぶく

蟹の泡 1




きれいな言葉を知りすぎて
自分の言葉を忘れてしまった


容易い道を選んでばかりで
自分の道さえ忘れてしまった


こだわることが多すぎて
忘れたものが多すぎて


もう一歩だって進めはしないと思った


ましてや自分が来た道を
辿って戻ることさえも・・・






e0018424_128318.jpg

[PR]
# by cheshire335 | 2005-08-05 12:09 | 蟹のあぶく

林 檎 ニ 似 タ 月



e0018424_1222178.jpg




 ほとほとと、夜道を歩く自分の影がいつもより妙に長いことに気付き
 ふと振り返ると真後ろに月がありました。

 その、まぶしいくらい煌々と輝く様を見て、


 「 林 檎 ニ 似 タ 月 」


 なぜそんなふうに思ったのでしょう?
 なんだか林檎みたいに、手のひらに乗せられそうな気がしたのです。


 私は立ち止まってそっと目を閉じ、夜空に向かって両の手のひらを
 “ 何か ” を受け止めるような形でさしのべました。


 その瞬間、手のひらにかすかな重みを感じたのです。

 たとえるなら、そう、

 ちょうど “ 林檎1個ぶん ” くらいの・・・



 そっと目を開き、おそるおそる手のひらに目をやると、そこには


 「 林檎ニ似タ月 」 または

 「 月ニ似タ林檎 」 が ありました。



 私は その場に立ちつくしたまま、
 自分の手の上の 「 それ 」 について考えてみようとしましたが


 何をどうしたらいいのか?
 何をどう考えたらいいのか?


 まったくわかりませんでした。



 面倒になった私は 「 それ 」 をポケットに押し込むと
 また ほとほとと歩き始めました。


 そしてそのまま 「 それ 」 のことを、すっかり忘れてしまったのです。




 次の晩、空に月はありませんでした。

 そのまた次の晩、やっぱり空に月はありませんでした。



 私は 「 まさか・・・」 と思いつつ、
 あの夜 着ていた上着のポケットを探りました。


 「 それ 」 は そこにありました。
 真っ赤に熟した、つやつや光る 林檎 の姿をしたままで。

 
 私は 「 それ 」 を 遠慮がちにひとくち囓りました・・・







 星もかすんでしまうほどに 煌々とかがやく

 「 まるで誰かにひとくち囓られた林檎のような月 」 が

 天高くに姿を現したのは、その夜のことでした。





  【 f i n 】











 +++ あたりまえですが、このお話はフィクションです +++
[PR]
# by cheshire335 | 2005-07-26 12:03 | 蟹の呟き

視線 6



e0018424_1242264.jpg

       なにを そんなに おそれて いるの?
[PR]
# by cheshire335 | 2005-07-22 12:07 |

 くろ



e0018424_1158383.jpg



近頃は、あっという間に家が建つ。

ついこのあいだ通りかかった時は、人が住んでいるやらいないやら
それすらも怪しいような古アパートがちんまりと慎ましく建っていたのに
いつの間にか取り壊されて更地になり、小洒落た家が三軒も建ってしまった。

これじゃあ地面に草が生える暇もありゃあしない!

草ぼうぼうの空き地など、この辺りでは滅多にお目にかかれなくなってしまった。


かつてはこの町にもたくさんの空き地があった。
もちろんそこは、子どもにとって絶好の遊び場だった。
かくれんぼ、高鬼、秘密基地、財宝ごっこ・・・

よじ登れる場所には登り、潜り込めるところには潜り込み、
何が楽しかったのか、一心不乱に穴掘りをしたこともあった。


そして空き地には くろ がいた。

黒いから、くろ。
なんて単純明快だろう。

くろは、当時遊び場にしていた空き地の一つに、ある日ひょっこり現れ住み着いた猫。
ひとつ所に腰を据えない、流れ者の猫だったのだと思う。
しっかりと生きる術は心得ていて、足元にすり寄り愛想を振りまいては食べ物をねだった。

放課後、小遣いを出し合って買った安物の猫缶を持ってくろに会いに行くのが
親には内緒の楽しみとなった。


私たちが “ ライバル ” の存在に気付いたのは、それから間もなくのこと。
空き地に行ってもくろに会えなかったり、餌を与えた形跡が見られるようになった。
ある日、ばったり鉢合わせしてみたら、同じ小学校の二学年下の女の子たちだった。

どちらも互いに譲らず 「 くろは自分たちの猫だから、勝手に遊ばないで!」 と主張した。
( 今思えば、何て身勝手な言い分だろう・・・ )
そしてくろをめぐり、激しい火花を散らせることとなった。

放課後になると一目散に空き地へと急ぎ、先にくろに会えたほうが 「 勝ち 」。
負けたほうはくろと遊べないことを悔しく思いながら、スゴスゴと退散するしかなかった。


そんな、おもちゃの取り合いのような状況に疑問を抱いたのは私たちのほうだった。

くろはくろで、誰のものでもなくて、命もあれば意志もある。
そんな当たり前のことを忘れて、奪い合っては自由を拘束していた。
大好きなくろに対してひどいことをしていた・・・そのことにようやく気付いたのだ。


私たちは空き地の塀に、石でメッセージを書いて残すことにした。


くろがすきなのは みんなおなじです
くろは みんなでかわいがりましょう


次の日、同じように石で書かれた言葉が並んでいた。


わかりました
けんかはやめて なかよくしましょう





それを機に、学年の差を超えた美しい友情が始まった・・・かと思いきや、
それから間もなくくろは現れた時と同じように、とつぜん私たちの前から姿を消してしまった。

私たちと年下の女の子たちは、以前と同じように他人に戻った。



石で書かれたメッセージだけが、ずいぶんと長い間、消えることなく残っていた。
[PR]
# by cheshire335 | 2005-07-18 12:11 | 蟹の呟き