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林 檎 ニ 似 タ 月



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 ほとほとと、夜道を歩く自分の影がいつもより妙に長いことに気付き
 ふと振り返ると真後ろに月がありました。

 その、まぶしいくらい煌々と輝く様を見て、


 「 林 檎 ニ 似 タ 月 」


 なぜそんなふうに思ったのでしょう?
 なんだか林檎みたいに、手のひらに乗せられそうな気がしたのです。


 私は立ち止まってそっと目を閉じ、夜空に向かって両の手のひらを
 “ 何か ” を受け止めるような形でさしのべました。


 その瞬間、手のひらにかすかな重みを感じたのです。

 たとえるなら、そう、

 ちょうど “ 林檎1個ぶん ” くらいの・・・



 そっと目を開き、おそるおそる手のひらに目をやると、そこには


 「 林檎ニ似タ月 」 または

 「 月ニ似タ林檎 」 が ありました。



 私は その場に立ちつくしたまま、
 自分の手の上の 「 それ 」 について考えてみようとしましたが


 何をどうしたらいいのか?
 何をどう考えたらいいのか?


 まったくわかりませんでした。



 面倒になった私は 「 それ 」 をポケットに押し込むと
 また ほとほとと歩き始めました。


 そしてそのまま 「 それ 」 のことを、すっかり忘れてしまったのです。




 次の晩、空に月はありませんでした。

 そのまた次の晩、やっぱり空に月はありませんでした。



 私は 「 まさか・・・」 と思いつつ、
 あの夜 着ていた上着のポケットを探りました。


 「 それ 」 は そこにありました。
 真っ赤に熟した、つやつや光る 林檎 の姿をしたままで。

 
 私は 「 それ 」 を 遠慮がちにひとくち囓りました・・・







 星もかすんでしまうほどに 煌々とかがやく

 「 まるで誰かにひとくち囓られた林檎のような月 」 が

 天高くに姿を現したのは、その夜のことでした。





  【 f i n 】











 +++ あたりまえですが、このお話はフィクションです +++
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by cheshire335 | 2005-07-26 12:03 | 蟹の呟き

視線 6



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       なにを そんなに おそれて いるの?
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by cheshire335 | 2005-07-22 12:07 |

 くろ



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近頃は、あっという間に家が建つ。

ついこのあいだ通りかかった時は、人が住んでいるやらいないやら
それすらも怪しいような古アパートがちんまりと慎ましく建っていたのに
いつの間にか取り壊されて更地になり、小洒落た家が三軒も建ってしまった。

これじゃあ地面に草が生える暇もありゃあしない!

草ぼうぼうの空き地など、この辺りでは滅多にお目にかかれなくなってしまった。


かつてはこの町にもたくさんの空き地があった。
もちろんそこは、子どもにとって絶好の遊び場だった。
かくれんぼ、高鬼、秘密基地、財宝ごっこ・・・

よじ登れる場所には登り、潜り込めるところには潜り込み、
何が楽しかったのか、一心不乱に穴掘りをしたこともあった。


そして空き地には くろ がいた。

黒いから、くろ。
なんて単純明快だろう。

くろは、当時遊び場にしていた空き地の一つに、ある日ひょっこり現れ住み着いた猫。
ひとつ所に腰を据えない、流れ者の猫だったのだと思う。
しっかりと生きる術は心得ていて、足元にすり寄り愛想を振りまいては食べ物をねだった。

放課後、小遣いを出し合って買った安物の猫缶を持ってくろに会いに行くのが
親には内緒の楽しみとなった。


私たちが “ ライバル ” の存在に気付いたのは、それから間もなくのこと。
空き地に行ってもくろに会えなかったり、餌を与えた形跡が見られるようになった。
ある日、ばったり鉢合わせしてみたら、同じ小学校の二学年下の女の子たちだった。

どちらも互いに譲らず 「 くろは自分たちの猫だから、勝手に遊ばないで!」 と主張した。
( 今思えば、何て身勝手な言い分だろう・・・ )
そしてくろをめぐり、激しい火花を散らせることとなった。

放課後になると一目散に空き地へと急ぎ、先にくろに会えたほうが 「 勝ち 」。
負けたほうはくろと遊べないことを悔しく思いながら、スゴスゴと退散するしかなかった。


そんな、おもちゃの取り合いのような状況に疑問を抱いたのは私たちのほうだった。

くろはくろで、誰のものでもなくて、命もあれば意志もある。
そんな当たり前のことを忘れて、奪い合っては自由を拘束していた。
大好きなくろに対してひどいことをしていた・・・そのことにようやく気付いたのだ。


私たちは空き地の塀に、石でメッセージを書いて残すことにした。


くろがすきなのは みんなおなじです
くろは みんなでかわいがりましょう


次の日、同じように石で書かれた言葉が並んでいた。


わかりました
けんかはやめて なかよくしましょう





それを機に、学年の差を超えた美しい友情が始まった・・・かと思いきや、
それから間もなくくろは現れた時と同じように、とつぜん私たちの前から姿を消してしまった。

私たちと年下の女の子たちは、以前と同じように他人に戻った。



石で書かれたメッセージだけが、ずいぶんと長い間、消えることなく残っていた。
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by cheshire335 | 2005-07-18 12:11 | 蟹の呟き

 line



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       すべての物事に  境界線は存在する
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by cheshire335 | 2005-07-16 12:09 |

 Go ahead!!



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       今だ と 思った時だけが 今
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by cheshire335 | 2005-07-15 11:58 |

所在



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        すべてに意味を  求めるなかれ
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by cheshire335 | 2005-07-14 11:22 | 蟹のハサミ

shangri - la



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「 空の色が違う 」 と私は言った。
「 何それ、 詩人気取ってるんすか?」 と笑い飛ばされた。

ひと昔まえの初夏のことである。

笑い飛ばしたのは、7歳年下のアルバイト少年。
たかが7歳、されど7年。
ああ、これもジェネレーションギャップってやつかと苦笑いした。


詩人気取りでも格好つけたわけでもない。
私は見たまま、感じたままを口にしたまでのこと。
いつからか私は、毎年この季節に物足りなさを感じるようになっていた。

空の、青・・・
空の青さが足りないじゃないか?


空といえば、昔は ( 嗚呼・・・ 私もこの言葉を口にする歳になったか ) もっと青いものだった。
100人中95人が絵に描くような色をしていたはずだ。

じりじり暑くなるごとに、空の色は濃く、雲は白く威勢良く。
それを眺めて 「 ああ、夏が来た 」 と感じたものだった。

梅雨明けの雷雨に、半袖の腕を容赦なく打たれながら
むしろさばさばと清々しい気分で 「 ああ、夏が来る 」 と感じたように。

それらは夏を迎えるための、一種のセレモニーだったはずだ。


カンキョウオセン、 チキュウオンダンカ・・・
騒がれ始めたのは、ごく最近のこと。

なるほど、私より生きている時間が7年少ないアルバイト少年にとっては、
現在のこの、ブルーグレイの空が当たり前だったのだろう。

そう考えると、7年という時間を、嬉しくも切なくも感じる。

あの青空を、知ることができた7年
あの青空を、知ってしまった7年


たやすくは手が届かない、または、二度と手が届かない、という点でいうなら
“ 理想郷 ” というものは案外身近なところにあるのかもしれない・・・
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by cheshire335 | 2005-07-13 12:42 | 蟹の呟き

視線 5



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          嘘も本音も紙一重
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by cheshire335 | 2005-07-12 11:57 |

或る町で。



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そこは、とても感じの良い町だ。

木造の趣ある家が建ち並ぶ細い路地、穏やかに時を経た板塀、今も現役の井戸。
あちらこちらにのんびりと猫が寛ぎ、近付いても逃げる気配がない。


私が呼ばれたお宅も、大きな平屋の日本家屋だった。
古びた蔵や、ひなびた庭のある家。

私はこうした、人の暮らしの中で自然と時を重ねた住まいを愛している。
浮き出た錆や、染みついたにおいや色を愛している。
決して自分のものにならないと、わかっているから余計に愛す。

ゆっくりと家の周りを見て歩きながら、私は心躍らせている。
ポケットに忍ばせた、小さなカメラに指先を触れてみる。

仕事が終わったら、あの窓を撮ろう。 
硝子に施された細工がとてもすてき。

朽ちかけたような蔵の土壁もいい感じだ。
あとでお願いして、少しだけ中を覗かせてもらえないだろうか。


あれこれ思いを巡らせるうちに、仕事の時間となった。
わざわざ何時間も電車を乗り継いで来たというのに、
私の 「 仕事 」 はといえば、そのお宅の下足番なのだ。

巨大な玄関に、旅館のような靴箱がずらりと並べられている。
それなのに、靴箱に収まりきらない靴が溢れている。

それらを迅速に適切に片づけようとしている先から、どんどん人が出入りする。
中へ入る人々は、ぽおんと乱暴に靴を脱ぎ捨ててゆくし
外へ出て行く人は、早く自分の靴を出せと焦れている。

私は床から顔を上げる暇もなく、ただ黙々と
靴を片づけては出し片づけては出し、を繰り返しているのだ。

しかし、どうやらあまり苦にはならないらしい。
事務的に手だけを動かしながら、私の頭の中は蔵や錆や土壁や井戸や猫や
窓硝子や板塀のことでいっぱいになっているからだ。

ポケットに入れたままの、小さなカメラの重みを感じるたびに
ニンマリと笑みさえ浮かべてしまう。


果てがないかのように思えるこの作業にも、必ず 「 終わり 」 はやってくる。
時給800円、午後3時までの一日限りのアルバイト。
解放されたらあとは私の自由時間だ。
仕事前に目を付けていたものを片っ端から撮りまくるのだ!

ええと、まずは近くの路地裏へ。
一面に蔦のからんだ家があったな、そういえば神社も。
あの石段で熟睡してた三毛猫はまだいるだろうか?


機械的に、大量の靴を片づけては出し片づけては出ししながら
頭の中は撮り歩きの計画でいっぱいだ。

仕事が終わるまで、あと一時間。
ああそうだ、やっぱり先に蔵の中を見せてもらえるかどうか確認しなくちゃ!

仕事が終わるまで、あと・・・










仕事が終わるより、目が覚めるほうが早かった。
わくわくした気持ちだけが宙に浮いたまま、夢はただの夢として終わった。

あくせく働くだけ働いたのに、お楽しみはお預け!
すっかり損した気分で最悪の目覚めを迎えることとなった。



“ 良い夢なんて、見ないに限る ”・・・



つまり、そういう話である。
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by cheshire335 | 2005-07-11 15:03 | 蟹の呟き

Pride



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        意地でもなければ見栄でもない
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by cheshire335 | 2005-07-10 12:11 |