林 檎 ニ 似 タ 月



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 ほとほとと、夜道を歩く自分の影がいつもより妙に長いことに気付き
 ふと振り返ると真後ろに月がありました。

 その、まぶしいくらい煌々と輝く様を見て、


 「 林 檎 ニ 似 タ 月 」


 なぜそんなふうに思ったのでしょう?
 なんだか林檎みたいに、手のひらに乗せられそうな気がしたのです。


 私は立ち止まってそっと目を閉じ、夜空に向かって両の手のひらを
 “ 何か ” を受け止めるような形でさしのべました。


 その瞬間、手のひらにかすかな重みを感じたのです。

 たとえるなら、そう、

 ちょうど “ 林檎1個ぶん ” くらいの・・・



 そっと目を開き、おそるおそる手のひらに目をやると、そこには


 「 林檎ニ似タ月 」 または

 「 月ニ似タ林檎 」 が ありました。



 私は その場に立ちつくしたまま、
 自分の手の上の 「 それ 」 について考えてみようとしましたが


 何をどうしたらいいのか?
 何をどう考えたらいいのか?


 まったくわかりませんでした。



 面倒になった私は 「 それ 」 をポケットに押し込むと
 また ほとほとと歩き始めました。


 そしてそのまま 「 それ 」 のことを、すっかり忘れてしまったのです。




 次の晩、空に月はありませんでした。

 そのまた次の晩、やっぱり空に月はありませんでした。



 私は 「 まさか・・・」 と思いつつ、
 あの夜 着ていた上着のポケットを探りました。


 「 それ 」 は そこにありました。
 真っ赤に熟した、つやつや光る 林檎 の姿をしたままで。

 
 私は 「 それ 」 を 遠慮がちにひとくち囓りました・・・







 星もかすんでしまうほどに 煌々とかがやく

 「 まるで誰かにひとくち囓られた林檎のような月 」 が

 天高くに姿を現したのは、その夜のことでした。





  【 f i n 】











 +++ あたりまえですが、このお話はフィクションです +++
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by cheshire335 | 2005-07-26 12:03 | 蟹の呟き
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